この本を当初は買うかどうか迷ってた。
果たして、自覚している性格とは相当異なるであろうこの選手の自伝を読むことに、意味はあるのだろうか。
また、得るものはあるのだろうか。
そんな正直疑心暗鬼な状態で購入し、読み始めたわけだが。
いやはや、本当に面白かったよ。
これまで読んだ書籍の中でも、トップクラスに面白かったし、ここは見習うべきだな!と思うことが明確だった。
なんせ、あの「ズラタン・イブラヒモビッチ」の自伝だからね。
久しぶりに、読んでいてワクワクが止まらず、次へ次へと読み進めてしまい、400ページ近くあるのに、1週間もかからずに読み終わってしまった。
この本が魅力的なところはたくさんある。
まず第一に、彼自身が一般人とは少々ずれた感覚を有していることにある。
社会人になってから、学生時代の失敗エピソードとか、スゴイ体験とか、そういったものを多く持っている人は、ネタを多く持っているから、雑談やら飲み会の場で活躍ができる。
それと同じことで、彼も相当くだらないことを数多くやらかしている。
書籍を読んでいて、何回心の中で「くだらねー!」とつぶやいたことか笑
例えば自転車泥棒だとか、万引きだとか、爆竹を他人の家に投げ込むだとか、スピード違反だとか、チームのランニングトレーニングをバスに乗ってサボるとか、門限破りとか、明け方までテレビゲームに熱中するとか。
ただ上記に挙げたようにいたずらだとか、「ぎりぎりアウトではない犯罪(もちろん犯罪にアウトもセーフもないのは承知だが)」レベルでの行為だ。
もちろん、こういった行為はマネしたくないし、子供にマネさせたくもない笑
彼自身、サッカー選手になっていなかったら犯罪者になっていたかもしれないと告白している。
だけど、書籍の中で、重要なスパイスになっていることは事実。
これがあるから、「次はズラタンは何をやらかすのかな?」と期待してしまうのだ。
また、彼の気性の荒さもあり、相手チームの選手や、チームメイトとのいさかいも頻繁にあった。
そういったことも、その時の背景を事細かに綴っているので、サッカーファンからしてみれば、舞台の裏側を知れるという訳だ。
第二に、彼の生い立ちが赤裸々に語られているところ。
成功を収めたサッカー選手によくあるのが、家庭環境が劣悪であり、そこから抜け出すためにサッカーを死に物狂いで頑張ったというもの。
彼もその例にもれず、家庭環境はよろしくなかった様子。
だからこそ、先述したように一般人とは異なる感性を持っているともいえるけど。
父親は彼と似た激情家、興味があるのは酒と故郷ユーゴスラビアの音楽だけで、サッカーのことには殆ど興味なし。
母親は彼の腹違いの兄弟姉妹達を養っていることもあり、常に働きづめで家庭内は毎日戦争のようだった。
彼は元々母親の方で育てられていたようだが、後々父親の家で面倒を見られることになった。
ただ結局は、双方から満足のいく愛情を得られていたわけではなく、ひもじく寂しい日々を送っていた。
小さいころからサッカーはやっていたようだが、自分勝手なプレーや振る舞いだったりで、複数のサッカークラブに脱退と加入を繰り返していたそうな。
マルメFFという名門チームに加入したはいいが、そこでも素行の悪さに目をつけられ、保護者達は彼をチームから追い出すための嘆願書を作り、監督に手渡したそうだ。
まぁ、彼がその嘆願書の発起人となった父兄の息子に頭突きを見舞ったことが原因ではあるのだが笑
嘆願書の件については、彼の中でも根に持っている出来事のようで、その後も何回か書籍中に登場していた。
結局、当時の監督が男気のある方だったため、それは本人の前で破かれ、何の効果もないものとなった。
一般的には、何かしらの措置が講じられてもおかしくないかもしれないけれど、この監督も大した方だ。
生い立ちの所で、1か所感動し、鳥肌が立ったところがある。
彼の父親が劇的に変わったということだ。
前述のとおり、酒浸りで、サッカーにまるで関心がなかった彼の父親が、彼がマルメFFのトップチームに昇格し、スタジアムでプレーするようになってから、毎日欠かさず練習を観に来るようになった。
また、部屋の中もインタビュー記事・ユニフォーム・スパイク等を丁寧に保管したミュージアムのようになっていった。
サッカーの力が人間をも変えてしまうということを如実に表したエピソードに、思わず心が震えた。
彼は父親が「ズラタン中毒」に侵されたと表現していた。
こういう彼の言い回しはセンスがあると思う笑
さて、その後の彼のビッグクラブでの大活躍はサッカーに詳しい方であればご存じだろうし、本書を実際に読んでいただくとして。
最後に魅力的な部分、それは彼の哲学。
彼はハッキリとした人間だ。
言いたいことはハッキリと言わないと気が済まないし、問題は有耶無耶にせずに立ち向かう性格。
それが問題したり、誰かと衝突したり、それが問題になることももちろんあったけれど、それが自分なのだと、強い気持ちで譲らない。
それでも、彼は自身とチームを数多くの成功に導いてきた。
彼も尊敬すべき、「芯の通った人間」だ。
自分の哲学を必ず貫き通し、それを信じて進む。
この岩のように固い姿勢は、絶対に見習うべき哲学だ。
この部分においては、子供達にも学ばせてあげたいな。
そして彼は、サッカーにおいてはとことん真面目だ。
若手の頃にランニングトレーニングをサボってるけど笑
これはルイス・スアレス選手もそうだったけど、サッカーに対してとことん純粋に突き詰め、自分に厳しく接せられる。
イブラヒモビッチ選手においては、日常生活でくだらないことをして新聞をにぎわすし、スアレス選手は噛み付きするし、ちょっと問題があるけど、それでも両選手とも、サッカーに対しては超真面目に取り組んでる。
それが問題児と言われている彼らが、愛されてしまう理由なんだろう。
この書籍内に、「聞くが、聞かない。」というフレーズはたくさん出てくる。
何だか言うこと全然聞かないようなニュアンス思えてしまうが、実際は「監督に耳を傾けて多くのことを吸収して学ぶが、嫌なことには耳を貸さないで自分が信じることを貫き通す。」という意味だ。
つまり彼も、しっかり聴くところは聴いて他者から学んでいる。
それでも、同意ができないことに関しては、従わずに自分の信じる道を行く。
この意志の強さが、彼の魅力なのだと思う。
この書籍には、マネしちゃいけないことも数多く書かれているけど、それ以上に多く学ぶことがあり、魅力的。
これはサッカー好きの方なら間違いなく読むべきだし、もちろんそうでない方も読むべきだ。
きっと、感動とエネルギーを貰える。