実は小説の名前自体は昔から知っていた。
妻が嵐のファンであるため、私もある程度嵐の楽曲は知っているのだが、最も好きな「Beautiful days」がドラマ版流星の絆の主題歌ということを聞いていたから。
キッカケは、前回読んだ「悪意」がとても面白く、著者が東野圭吾氏で同じだったので、また期待をして読んでみた次第。
物語自体はいきなりヘビーな展開。
冒頭でいきなり小学6年生の有明功一、4年生の泰輔、1年生の静奈の両親は、深夜彼らが星を観に行った2時間程度の間に何者かに殺害され、孤児になってしまう。
ここの描写は読んでいて胸が痛くなった。
私も5歳と2歳の息子がいる。
仮に自分に置き換えると、私と妻が何者かに殺害され、彼ら2人だけになってしまったということ。
今、そのようなことになっても、もちろん2歳の次男は何もわからないだろう。
だけど、5歳の長男は、静奈同様に考えるはず。
「お父さんとお母さんはどこへ行ってしまったの?」
物語では功一が、事件後間もなくして静奈に真実を教えている。
静奈は小学1年生として当然の反応、大変に泣き喚いた。
きっと私の長男も同様の反応をするだろうと考えると、心が苦しくてしょうがなかった。
ここは子供がいる人が読んだらきっと同じ気持ちになるのではないかな。
事件の犯人は、最後まで読めなかった。
昨日、読み終わるまでに物語を反芻し、登場人物を思い返してみたけど、該当しそうな人物は見当たらないように思われた。
途中から、事件当日に泰輔が自宅から出ていくのを目撃した戸神政行ではきっとないんだろうな、ということは分かったけど。
功一達が仕掛けた数々の物的証拠を警察に問われても、犯人らしき反応が全くみられなかったから。
でも真相がわかってから考えると、本当に何も知らなかったわけではなく、嘘をつくべきところは嘘をついて知らないふりをしていたってことだよね。
だって「アリアケ」とか、被害者夫妻を知らないって警察に言ってたわけだし。
そこは、彼自身が警察の追及に対しても動じない、手ごわい人間性だったということになる。
だけど、息子の行成の口からでた「ハヤシライスの味が昔の洋食屋の味にそっくり」という言葉に反応したり、功一達の父親がよく行った「サンライズ」には接点があったり、犯人と断言はできないが、事件と何かしら関係はしている、という絶妙な描写だった。
だから読者も、犯人なのかそうじゃないのか、最後まで迷う結果になり、早く真相が知りたい、と思う結果になったんじゃないかな。
それってつまり「早く続きが読みたい=この小説は面白い」ということに繋がるよね。
また、彼の息子で主人公達の詐欺のターゲットとなっていた戸神行成も父親同様にしっかりとした人間だった様子。
仕事熱心で、いざという時の機転も利く。
彼らの仕掛けたトラップを見抜いた後も、父親の嫌疑について直視し、逆に功一と泰輔と協力して傘のことを吐かせた。
頭の切れる功一でさえも、静奈が彼に惚れてしまったのもわかる、と感服する人間性だった。
だからこそ、彼に偽名を使って近づき、彼の父を殺人犯と確実にするためのトラップを仕掛けた静奈の心の揺れようにも、読んでいて切ない気持ちになった。
兄達から言いつけられた使命と、成就することのない恋の狭間で苦悶する姿は、言いようのないやるせなさに襲われた。
でも恋心を優先させることなく、最終的には兄達の言いつけを守ってミッションを遂行するとは思った。
タイトルの「流星の絆」は、彼らの絆の深さを表しているものだと考えたから。
そしてその犯人は。
まさか警察、しかも孤児になってしまった彼らを気にかけ、今でも功一と連絡を取り合っている柏原だったとは。
でもこっちも、伏線はしっかりと張られているんだよね。
現場にいち早く到着していたのは柏原だったし、それでいて警察であれば、ある程度の工作をすることができた。
動かぬ証拠となった傘も、捜査当初から柏原は積極的に調べようとしてなかった。
功一達が仕掛けた物的証拠が発見されて、時効直前に事件の真相に近づくチャンスが訪れているのに、以前より事件に対する情熱を失っていたし。
私は当初、その物的証拠が誰かにより意図的に仕掛けられたものだと気がついており、更にそれが功一達ではないかと感づいているから、積極的に真相を解明したくないのだと思っていた。
だけど実際は事件の真犯人であり、真相を解明すればもちろん自分の犯行であったことが露見するからだったということになるんだよね。
功一は、最後に真相に気がつき、柏原と対峙して彼を問い詰めた。
その心も、とても悲しいものだったろう。
これまで事件の解明を懸命に進め、そして事件後も自分を見守ってくれていた、父の代わりのように思っていた人間が、まさに父殺しの真犯人だったとわかってしまった。
功一にとっては、知りたかったけど知りたくなかった真実だったよね。
功一が「どうして両親を殺したんだよ」と叫んでいる表情が脳裏に思い起こされて、また切ない気持ちになった。
ラストは納得できる終わり方。
功一、泰輔は詐欺を行ってきた過去にケジメをつけるため、被害者に可能な限り返金してから自首。
静奈は行成と結ばれ、彼から彼に詐欺行為をして売りつけるつもりだった偽物の指輪をプレゼントされる。
静奈にも贖罪をさせつつ、幸せに仕上げる良い終わり方だった。
総じて、感情移入もできるし、ラストもスッキリとする、傑作だと感じた。
東野圭吾氏の作品、悪意と流星の絆、どちらもとても面白かった。
今まで全く読んでこなかった、同氏の作品をこれからも読んでみたくなった。