正直、舐めていた。
小説は基本ミステリーものばっかり読んでいて、それ以外のジャンルについては全く目を向けていなかったが、ネットでビジネスマンが読むべき小説として出てきたため、興味を持って購入。
ただ読み始める前は、最初に書いた通り、あまり期待していなかったのが本音。
というのは、あらすじを超簡潔に言うと「出版社に勤める主人公と、同部署の面々が辞書作りに励むストーリー」。
トンデモトリックや設定がまかり通るミステリー小説と異なり、辞書作りというのは現実世界にあることだけど、一方で通常のビジネスとは異世界というイメージ。
ビジネス小説っていうと、実は小説で触れたことはなく、ドラマ「半沢直樹」にハマった程度なんだけど、ああいう勧善懲悪でスカッとする話というイメージがわかなかった。
だけど読んだらびっくり、その辞書作りの世界に引き込まれてしまった。
個人的に考えるこの書籍の魅力は、以下2点。
- 辞書作りに懸ける熱い思い
- 人物像の掘り下げ
1について、ファッション編集部から移動してきた岸辺は、当初は仕事に対して後ろ向きであった。
しかし、馬締や製紙会社の宮本の辞書作りに懸ける想いに感化され、いつしか岸辺もその魅力に引き込まれていく。
言葉に対する知見のなさや、会社の辞書編集部への扱いから辟易していた岸部も、最後は馬締に対して辞書に乗せる開設に関して意見をしたり、辞書に使う紙に対して決定権を持つまでになり、宮本ともに感動して泣きそうになったりするほどになっていた。
馬締は本当にマイペースなんだけど、辞書作りに対してはちゃんと物事を主張したり、部下に対して的確に指示を出したりしている。
読者側としては、そのギャップに魅力を感じるはず。
また2について、当初主人公と同じ辞書編集部に所属していたが、途中で広告宣伝部に異動になる西岡。
馬締とは真逆の、コミュニケーション能力に長けており、表面上は軽薄な人物に見える。
しかしその実、会社での居場所を見つけようともがいていた。
馬締の登場により、そのセンスは自分には到底及ばないことを知ることに。
また、ひそかに情熱を傾けていた辞書作りについても、異動により完成を見届けることは叶わなくなってしまう。
内面ではそれらによりネガティブな感情を抱いており、同居人の麗美に対してだけは、その弱さを打ち明けるところもグッとくる。
それでも異動前には、しっかりと馬締に対してアシストを決めており、逆に馬締も辞書が完成した暁として、あとがきに西岡の名前を載せている。
互いに足りないところを埋め合わせる馬締と西岡のコンビも必見ポイント。
本当に、ただの辞書作りの物語と思っていると、良い意味で痛い目に遭います!笑