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【書籍レビュー】「勇敢な心を育む冒険の物語」ブレイブ・ストーリー

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基本情報

  • タイトル:ブレイブ・ストーリー
  • 発行日:2003年3月3日
  • 出版社:角川書店
  • 著者:宮部みゆき

 

主な登場人物

  • 三谷 亘(ワタル):主人公。小学5年生。ゲーム好き。少し理屈っぽい。
  • 芦川 美鶴(ミツル):亘の小学校に転校してくる同級生。凄惨な過去を持つ。終盤ではサイコパスと化す。
  • 三谷 明:亘の父。ワーカホリック。少々ロジハラ気質。かつての恋人と復縁するため、離婚を切り出し家を出ていく。
  • 三谷 邦子:亘の母。ごく普通の専業主婦。かと思いきや、妊娠したと嘘をつき、明を当時の恋人から奪うというかなりエゲつない過去あり。
  • 小村 克美(カッちゃん):亘の親友。両親は居酒屋経営。
  • キ・キーマ:幻界での旅仲間。水人族。幻界について、ワタルに色々と教えてくれる。
  • ミーナ:幻界での旅仲間。ネ族。スペクタクルマシン団というサーカス団の出身。ワタルを気にかけている。
  • カッツ:幻界でのワタルの上司。気の強い性格で芯がしっかりしている。
  • 三谷 悟:明の兄。通称「ルウ伯父さん」。明と違っておおらかな性格で、亘から慕われている。
  • 田中 理香子:明の元恋人。過去、邦子に明を奪われた因縁から、邦子に対して復讐を企てる。

 

すごく簡潔な起承転結

  1. 起:どこにでもいる小学5年生の亘は、ある日父と母の離婚危機に直面する。
  2. 承:亘は美鶴の危機を救ったことで、幻界へ誘われる。亘は現世の出来事を変えるため、幻界へ足を踏み入れる。
  3. 転:幻界での冒険を続けるうち、ワタルとミツルどちらかは、幻界の秩序を保つための生贄にならなければならないことが判明する。
  4. 結:最終目的地の女神の下に辿り着いたワタルは、幻界の危機を救うための願いを叶え、現世へ戻る。

 

だらだら感想

ブレイブ・ストーリーの意味

帯にも書かれているし、和訳しても明らかなように、「勇気の物語」と捉えられる。

 

果たしてそれはどんな意味が込められているのか。

 

それは恐らく、ワタルが幻界の冒険を通じて、勇敢な心を持てるように成長したという見方。

 

勇気をもって前進することと同義と考えれば、最後の願いにそれは表れている。

 

幻界の危機を救うことを願ったため、現世の運命を変えることはできなかった。

 

現世で事実としてあったことをなかったことにするのでは、そもそもワタル自身が幻界での冒険を通じてどう変わったのか、ということを描くことができないわけだから、ある意味当然とも言える。

 

現実を現実として受け入れることは、大変な勇気がいる。

 

とりわけネガティブなことであれば。

 

失敗・挫折・嫉妬・自己嫌悪etc…枚挙に暇がないほど、そういったことはありふれている。

 

それを受け止めることは、自身の力不足を認めることに他ならない。

 

それには、自尊心が傷つくことを許容しなければならない。

 

一般的に考えれば、小学生にとっては受け入れがたいように思う。

 

ワタルは最終局面、自身の分身に対して、拒絶することなくアドバイスに従って受け入れることで、試練を乗り越えることができた。

 

自身の分身は、上記の人間の抱えるネガティブな部分を具現化したものであり、凶悪な言動をもってワタルに襲い掛かった。

 

それも自分自身なのだと受け入れられたのは、紛れもなく冒険を通じた成長の結果と言えるだろう。

 

私の好きな言葉の一つに、「醜さを愛せ」というものがある。

 

夫婦そろって大好きなドラマ、「リーガル・ハイ2」最終話で、堺雅人さん扮する弁護士の古美門研介が発するセリフ。

 

前後はうろ覚えだけど、醜くて卑劣で汚い底辺のゴミクズども、それが我々人間だ、というもの。

 

上から立って見下ろし、人を導こうと奢るのではなく、同じステージに立ち、醜い部分も認めて愛していくことが大切、という趣旨。

 

自らの欠点も受け入れられる様な、大きな器が欲しいですな。

 

幻界の登場人物

幻界の登場人物の造形は、これまでにプレイしたゲームや、視聴したアニメのキャラクターを脳内投影することが多かった。

 

キ・キーマは、ファイナルファンタジータクティクスに登場するバンガ族。

 

ミーナは、ジブリ作品の猫の恩返しに登場する二足歩行の猫。

 

ラウ道士は、ハリーポッターシリーズのアルバス・ダンブルドア。

 

読者ごとに登場人物の姿形はイメージが異なるはず。それを語り合ってみたら面白いかもね。

 

ワタルとミツル

ミツルは最終盤、数えきれないほどの人達を手にかけ、葬った。

 

現世含めて、物語序盤では垣間見られなかった、彼の酷薄さが顕になっていった。

 

物語中盤、ワタルを助けた際も巨大な竜巻を発生させた。それにより、ワタル以外の人達も巻き添えになることを意に介さなかった。

 

元からそのような素養があったのだろうし、そのような性格だったのだろう。

 

酷い過去を経験したからこそ、他者に対しても一歩引いた目線で観察し、自身の目的のために邁進する。

 

亘には助けられた恩があったため、その借りを返したに過ぎない。

 

もしかしたら共闘する道もあるかもしれないと予想したが、魔病院の件を経て、彼がそんなつもりは毛頭ないことが明らかになっていた。

 

結果的に、2人の道が交わることは終ぞなかったが、それは女神到達前の最後の試練が物語っている。

 

ワタルは自分自身の弱さも受け入れ試練を突破したが、ミツルはそれに失敗し「半身」となる運命を辿った。

 

現実世界でも大切なことを、小説を通じて訴えているように感じた。