小林泰三によるミステリー小説。
大学生の栗栖川亜理は、いつからか、不思議の国のアリスにも似た夢を見るようになる。
ハンプティダンプティが殺された夢を見た翌日、大学では玉子と渾名が付けられた教授が死んでいた。
その後も夢とリンクしながら起こり続ける、身近な人達の怪死。
同じ夢を見ている仲間の井森と共に、亜理は事件の究明に挑む…というのが、あらすじ。
夢の中の世界と現実世界の登場人物は、固有の人物や獣で繋がっている(異なる世界の自分のことはアーヴァタールと呼ばれている)。
必ずしも姿形や性別が同一であるとは限らず、井森は蜥蜴だし、李緒(有理の1学年上の女学生)は白兎(男性)だし、死んだ教授もハンプティダンプティという卵みたいな姿形のキャラクター。
そしてこれこそが、この小説のキモでもある。
どうしても私達は、見た目から誰と誰が同一人物であるかを連想してしまいがち。
それによって、作者は見事に読者をミスリードさせることができている。
よって、自然と(この人は夢の世界ではあのキャラクターだな)と思っていたのに、終盤で明かされるその正体には、アッと驚きの連続が待っている。
ここからは特にネタバレ注意となるが、最もインパクトがあったのは、亜理の夢の中でのキャラクターかな。
何と亜理=アリスではなかったのだ。
性別や名前から、ここは揺らがない事実として捉えてしまいがちだが、実はアリスは亜理が飼っているハムスターのハム美であり、眠り鼠が亜理だった。
しかもその伏線は、ご丁寧に何箇所かに張り巡らされている。
亜理がハム美相手に2〜3時間もお喋りをしていたり、井森の亜理とアーヴァタールの容姿が類似しているという主張に対して、勘違いと反論しかけたり(第三者の介入でその先の会話はさえぎられてしまった)。
ハム美のくだりでは、私は変わった人なんだなぁー、で済ませたけど…笑
この伏線から、アリスのポケットには眠り鼠が入っていて、アリスと同じことを見聞きしているという発想まで至った人はスゴい。
眠り鼠も、物語冒頭でちょこっと登場してるくらいだしね。
この作品(=設定)が好評だったからか、同様の設定で続編が出版されている模様。
そちらも是非、読みたいな。