貴志祐介氏といえば、まだ読書習慣がなかったころ、クリムゾンの迷宮を読んですごいハマった記憶がある。
だから今回選んだダークゾーンも、間違いなく面白い作品だろうと目論んで購入。
結果、やっぱり貴志祐介氏の「ゼロサム・ゲーム」作品は面白いと思った。
内容としては、ベースとなっているのは将棋。
私は将棋のルールを知らないけど、将棋の各駒にはそれぞれ特色がある。
確か動き方とか、強弱関係とか。
それと同様のゲームを、主人公の塚田、そしてその関係者の人間たちが、ダークゾーンと呼ばれる異空間で、自分達を駒として闘うというもの。
参加者たちは、それぞれ恐ろしい人間外生命体なようなものに変貌しており、「死の手(リーサル・タッチ)」「一つ眼(キユプロクス)」等の固有名詞がつけられ、相手を触るだけで殺せたり、テレパシーが使えたり、特殊能力を有している。
主人公の塚田は赤軍の王将(キング)となり、各駒を駆使することで、青軍の王将を仕留めることで勝利を目指す。
勝敗は7番勝負。
この書籍に関して、楽しめる点は2点あると考える。
1点目は、純粋に各対局の成り行きを楽しむこと。
主人公の塚田と、青軍の王将である奥本は、互いに将棋においてライバルという関係にあり、それぞれが持ちうる知能を駆使して、相手王将の殲滅にかかる。
各対局の戦略もそれぞれ異なり、奇襲をかけたり、餌をちらつかせてトラップに誘い込んだり、時間を稼いで引き分けに持ち込んだり、相手の駒を倒すことで貰えるポイントにより駒をパワーアップさせたり、駆け引きが楽しい。
クリムゾンの迷宮でもそうだったけど、こういうゲリラ戦でものをいうのは、情報なんだよね。
最終的な勝敗も、それが分かれ目となった印象。
そして2点目は、各章の合間に挟まれている、現実世界での塚田のこと。
各章ごとに、少しづつ塚田の現実世界での出来事が綴られている。
それが、このダークゾーンとどう関係していくのか、と推理していくのも楽しい。
本筋は、各章の対局にあるからか、割と早い段階で、現実世界の塚田の状態が思わしくないと推測できるのは難しくない。
例えば、ダークゾーンの参加者。
塚田がこれまで接したことのある人間が駒になっているようだが、大学の友人や将棋での師匠はともかく、どこかで会ったことがあると思われる看護師や警察が参加している。
ということは、現実世界ではそういった人たちの世話になっているということが予想できる。
また、塚田ももっと若い頃は将来を嘱望され、自身もプロになることを疑わなかったが、プロ一歩手前の状況から抜け出せず、もがいていたり。
恋人との理沙との間に思いがけず子供ができたが、プロに慣れずにいる焦りから、彼女に辛く当たってしまったり。
上手くいかずに、精神的に参っていたんだね。
そして、最後に明かされる結末は、塚田は恋人の理沙を死なせてしまい、お腹の子供も失った(元々子宮外妊娠で助からないようだったが)。
そして、自らを踏み台にプロになった奥本に対しては、理沙とその子供を失った場所であり、ダークゾーンでの戦いの舞台でもある軍艦島で、彼を殺害してしまう。
塚田は、奥本の遺体が発見され、警察に捕まりそうになったところ、逃走を図った結果、自動車にはねられて意識不明に。
その意識不明の中、ダークゾーンで闘っているということだった。
これループになっているような気がするのよね。
ダークゾーンで闘う⇒勝利して目覚めると、理沙と子供が死に、奥本殺害後の現実世界で目覚める⇒会社へ出社しようとしたところにパトカー到着⇒逃走を図るも自動車にはねられる
塚田自身が望んだように、自分の能力が如何なく発揮でき、理沙が「死の手」として自軍の駒で参加しており、一緒にいられるダークゾーンでの闘いに身を投じることとなっている。
だがこれは、塚田の心の弱さが招いた現状を、ダークゾーンという場所に逃げているだけに過ぎない。
プロになれなかったのも、将棋に正直に向き合わなかったからだし、理沙と子供が死んでしまったのも、彼に覚悟がなかったから。
奥本を殺害したのも、彼が酒を飲んで眠ってしまった隙をつき、彼と自分の現状の不公平さに絶望したからに過ぎない。
ダークゾーンでの7番勝負には勝利したものの、現実を直視しないとこうなってしまうという、悲しい結末だった。