正直途中までは、ただのエロ&グロ描写注意のホラー作品かと思ったんだけど、ラスト衝撃だった。
ただまずはそのエロ&グロ注意なところから。
物語序盤から中盤までは、殺人鬼・蒲生稔の殺戮描写が続く。
しかも結構刺激強め。
いわゆる身体を切り取られる感じなので。
しかもその切り取った一部を持ち帰り、嗜むという。
終盤にかけては、蒲生も次第に彼の犯行について調査している人達にかぎつけられ、追い詰められるけど。それまでは「読む作品間違えたかな?」とも思った。
けどラストの衝撃はイイ意味で裏切られた。
作品として、そういった衝撃をうたっていたわけではなかったし、油断していたのもあるんだけど。
衝撃という意味では、これまで読んだ作品の中でも一番だと思った。
理由は、その犯人の正体。
この作品では、冒頭から蒲生稔=蒲生雅子の息子、という等式で展開していく。
が、実際はそれは作者である我孫子武丸氏による巧妙な罠。
実はその正体は、蒲生雅子の夫であったというもの。
これは100人中100人がだまされたんじゃなかろうか。
この作品も、何人かの視点から物語が進んでいくタイプで、冒頭に雅子の視点で、「自分の息子が犯罪者ではないかと疑い始めたのは…」とある。
その後に稔の視点で「蒲生稔が初めて人を殺したのは…」と続く。
この時点で読者には蒲生稔=雅子の息子という等式が成り立っている。
その後も含めて、息子の名前が稔であることは言及されていない。
だが冒頭の巧みな表現により、読者にミスリードをさせることに成功している。
その後も稔が大人であることは非常に巧みに隠されている。
例えば2人目の被害者(多分)とのやりとりにおいて。
被害者は稔を「オジン」その後訂正し「おじさま」と呼ぶ。
被害者は15,6歳という設定であり、かつ雅子のそれまでの視点により、息子は大学生であることがわかっている。
つまり、15,6歳の少女から見た稔は本当に「オジン」「おじさま」と呼ぶべき年齢(ラストで43歳と判明する)なのだが、大学生も彼女から見たら年上であり、例えば口が悪かったり、息子が老け顔であったりすれば、その様に呼ばれても何らおかしくはない。
かつ、その被害者も非行少女っぽく描かれているので、そんな呼び方も当然か、と思わされてしまう。
また、稔の職業が大学教授であることも巧い。
息子は大学生であることが示されているから、稔の大学教授としての振る舞いも、それが息子の行動であると誤認してしまえるのだ。
また、息子の部屋から血のついたビニール袋が見つかったり、犯人が犯行時に使ったとされる8ミリビデオを鑑賞したりしていた。
それは、息子が稔の犯行に気がつき、真相を追っていたからだった。
ラストで稔に刺されて殺されてしまうけど…。
ようやくここで、「アレ?」となるんだよね。
それまでは一片も息子が稔であると疑わなかったよ。
他にも色々と後から読み返すと、表現の妙があって面白いので、是非読んでいただきたい一作。