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【書籍レビュー】「一番怖いのは…」レモンと殺人鬼

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レモンと殺人鬼。

 

くわがきあゆ氏によるミステリー小説。

 

 

1.登場人物(主要人物のみ)

  • 小林美桜 主人公。妃奈の姉。歯並びが悪く常に口をマスクで隠している。
  • 小林妃奈 美桜の妹。物語開始前に何者かに殺害される。
  • 渚丈太郎 フリージャーナリスト志望の大学4年生。
  • 海野真凛 丈太郎の彼女。美桜とは小学校の同級生。
  • 桐宮証平 農学研究科の院生。「そのあとクラブ」(=学童)運営者。
  • 蓮 美桜が小学生時代に家付近によく遊びに来ていた少年。当時中学生。
  • 銅森一星 筑野バル経営者。
  • 金田 銅森の用心棒。
  • 佐神 10年前、美桜の父親を殺害した犯人。当時14歳。

 

2.良い所

最後まで、誰が「佐神」なのかが見当もつかず、意外な人物がその正体であるところ。

 

佐神は、美桜が幼い頃に父親を殺害したが、物語開始前には妃奈を殺害し、物語中盤頃では母親を殺害したことが判明する。

 

往々にして、こういった連続殺人鬼は身近な人物に潜んでいることが多い。

 

またその上で、適度な距離感がある人物である。

 

その場合、該当人物はそれなりに多い。

 

渚丈太郎は、小学校の同級生である真凛の彼女という立ち位置で、物語序盤では美桜の疑惑を晴らすため、一時的に協力関係になる。

 

また、桐宮証平はそのあとクラブの運営者として、美桜を雇う立場。

 

急に美桜をスカウトするあたり、怪しさを感じざるを得ない。

 

また、銅森・金田のコンビは妃奈とは友情で結ばれているという関係。

 

蓮も美桜の幼少時代の初恋の思い出…など、クロっぽい人物は至る所に。

 

誰が「佐神」なのか?と見当をつけて読み進めていくと、意外な人物が佐神であったことが判明し、驚きを禁じ得ない点。

 

3.悪い所

良い点の裏返しとなるが、「佐神」の正体が読めなさすぎて、肩透かしを食う。

 

上記「1.主要人物」に出てくるような人物であれば、まだ予想のしようがあろうが…。

 

予想外すぎて、若干ズルさを感じた。

 

4.結末

連続殺人鬼「佐神」の正体は、美桜の働く大学の警備員であった。

 

美桜は直前に正体?を明かした渚丈太郎や桐宮証平の手からは逃れられたが、佐神には追い詰められてしまい万事休す。

 

かと思いきや、過去に父親の飲食店の手伝いとして鳥を絞めていたことを思い出し、逆に佐神を返り討ちにし殺害。

 

自分は奪う側として生きていくことを誓う、というもの。

 

美桜の人間性の描写は中々に秀逸。

 

序盤は妹の疑惑を晴らすために尽力するが、中盤には妹が自分と同じ立場(奪われる側)から抜け出せていなかったことを安堵し、ひそかに笑みをこぼす。

 

終盤にかけては、父親から店の料理に出す鳥を絞める手伝いを半ば強制させられていたことが判明し、その記憶を基に(?)ラストは自らを狙う佐神を返り討ちに。

 

遂に正当防衛とは言え、殺人者となる。

 

美桜は表向きには佐神により人生が狂ったと言われる立場であろう。

 

ただ本質は、父親に鳥を絞める手伝いをさせられたことにより、潜在的には「奪う側」という意識を根付かせられていたんだと思う。

 

この物語、一番怖いのは徐々に迫りくる佐神ではなく、主人公の美桜だったということになるのではないか。

 

佐神の正体については、上記のとおり若干の違和感を感じつつも、美桜の変化については中々に面白かった。